透析原因第1位 糖尿病腎症 Part3
みなさんこんにちは。 北習志野えんどう内科 院長のえんどうです。
今回のテーマは 「糖尿病腎症」 ついに最終章のお話しです。
前回のお話までで、糖尿病腎症の「ステージ分類」までをお話しさせていただきました
いよいよ話も大詰めです。「糖尿病腎症 ステージごとの治療法」
では、さっそく続きをどうぞ。
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日本の高齢者の割合はついに全人口の27%を越えました。
これに伴い60歳以上の糖尿病患者が全糖尿病患者の約80%を占める時代です。
国内の糖尿病患者数は約1,000万人、
予備軍含めると、約2,000万人いるといわれています。
では、糖尿病の中で腎臓の合併症を持っている方がどれくらいかというと・・・
実に3人~4人に1人と言われています(約500万人)
そして恐ろしいことに
1万6000人
もの人が、
毎年毎年、糖尿病が原因で「透析」になってしまっているのです。
ではさっそく、糖尿病腎症のステージごとの治療法を見ていきましょう
治療はなんといっても「血糖管理」が基本となります。
そのうえで食事療法・血圧のコントロールなどを行っていきます
厚生省糖尿病調査研究班により作成された糖尿病腎症病期新分類にもとづき、
ステージ別治療が組み立てられます。
糖尿病性腎症の第2期では、尿からアルブミンが漏れ出てきますが(=尿アルブミン)
適切な治療によってアルブミンが漏れ出ない状態に戻すことができます。
腎症が進行すると、ついにはアルブミンの親玉であるタンパク質が尿に出てくるようになります
(=タンパク尿といいます)
ここまで進行すると、次第に血圧も上昇しはじめ、
高血圧によって血管が傷つけられ、さらに腎臓の状態を悪化させるという
負のスパイラルに陥ってしまいます。
糖尿病腎症の第1期、第2期では自覚症状はほとんどありません。
そのため、尿の検査をしないと判断できないのです。
第3期では、むくみ・息切れ・胸苦しさ・食欲不振などの自覚症状が出始め
第4期・第5期では、
顔色が悪い・易労感・嘔気・筋肉のつり・手のしびれや痛みなどの症状にまで及びます。
第3期以降では、進行を遅らせることはできても、元の状態に戻すことはできないため、
第2期の段階までで糖尿病腎症をみつける必要がある!
といえます。
では、治療の方法を1つずつ見ていきましょう。
1)血糖コントロール
糖尿病腎症ステージ分類の第4期までは、
血糖コントロールが腎症の進展抑制に効果的です。
具体的には、
空腹時血糖130 mg/dL以下、食後2時間後の血糖180 mg/dL以下、
HbA1c 7.0 % (NGSP値) 未満
にコントロールすることが目標となります。
薬の内容ですが、
第3期までは、内服薬でコントロールしていきます。
しかし、第4期以降にはいってしまうと「インスリン注射」に切り替えることが勧められます。
※腎臓の働きがおちているため、低血糖の出現には十分注意する必要があります。
2)血圧コントロール
血圧コントロールをきちんと行うこと。
これは糖尿病腎症の全ステージにわたり進行の抑制に効果大です。
血圧の管理を行うこと=腎臓を守るための必須要素
と思ってください。
具体的には、「130/80 mmHg未満」が目標となります。
降圧薬の種類に関しては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、
アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB)と呼ばれるタイプのお薬が第1選択薬となります。
※もしも、自分の飲んでいるお薬のタイプがわからなければ、主治医に聞いてみましょう
3)食事療法
糖尿病腎症における食事療法は、「低蛋白食」が基本になります。
日本腎臓学会から刊行された糖尿病腎症の食事療法ガイドラインによると
ステージ分類の第2期まではタンパク質制限はそこまで意識する必要はなく、
第3期以降で初めてタンパク質制限を中心とします。
※ステージにかかわらず、高血圧がある方では塩分制限(1日6g未満)が必要となります。
以下の表を見てください。
食事については、ステージごとに説明していきますね。
★ステージ1と2 「早期の発見で進展を防ぐことは十分に可能」
ステージ分類によると、1は「腎臓に障害はあるが、働きは正常」、2は「軽度の機能低下」
です。自覚症状はほとんどないため、健康診断などで発見されることが多い段階です。
しかし、回復の余地があるこの段階できちんと治療を始めることは、非常に重要です。
治療は、危険因子を減らす健康管理が基本となります。
危険因子とは、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、肥満、喫煙などです。
食事療法、特に糖質と塩分の制限が重要になってきます。
タンパク尿が多い場合(0.5g/日以上)は、タンパク質の摂取制限も必要です。
食事療法だけで改善しない場合は、薬物療法の出番です。
血圧管理のための薬、脂質管理のための薬、糖尿病管理のための薬などが処方されます。
以下に食事療法のポイントを紹介します。
【1】エネルギー制限
1日の摂取エネルギーの目安は、標準体重×30~35kcal。
標準体重は、22×身長(m)×身長(m)で計算します。
肥満かどうかは、BMI(体格指数)を求めることで推測できます。
その計算式は、BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))。
BMIが25以上であれば、肥満ということになります。
この場合は、1日の摂取エネルギーを標準体重×25kcal以下に抑えましょう。
【2】塩分制限
1日の塩分摂取量の目安は6g。
醤油小さじ一杯が約1g、味噌大さじ一杯が約2gになります。
漬物、塩漬け食品を控えるようにし、ラーメン、うどんなどの汁は飲み干さない
味噌汁は具だくさんにするなど、日頃から減塩を心がけましょう。
高血圧の人は、特に注意が必要です。
【3】タンパク質制限
タンパク質の摂り過ぎは、腎臓に負担をかけます。
ただ、タンパク質摂取を制限すると、エネルギー不足になることがありますので
かかりつけの医師や栄養士に相談しながら行いましょう
★ステージ3 「本気で治療に取り組まないとマズイ状況」
ステージ3は、腎臓の機能が健康時に比べ半分近く低下している段階です。
むくみや息切れ、疲れやすいといった自覚症状も現れ始めます。
ここからは、腎臓専門医の治療も必要となります。
治療の柱は、血糖管理と生活習慣の改善(食事療法を含む)、薬物治療の3つです。
透析療法が必要な末期腎不全に至らないためには、
ここで治療を徹底し、進行を食い止め、改善の方向へ導くことが大切です。
【4】カリウム制限
塩分、タンパク質の制限に加えてカリウムの制限が必要になってきます。
ステージ3からは腎臓からのカリウムの体外への排出が行われにくくなり、
血液中のカリウム濃度が高くなる「高カリウム血症」のリスクが高まるからです。
※高カリウム血症は不整脈などを引き起こし、命に係わる可能性もあります。
カリウムは生野菜、果物、芋類、豆類などに多く含まれているため、
生野菜はゆでて食べるなどの工夫も必要です。
★ステージ4 「目標は現状維持 とにかく透析導入を防ぐ」
ステージ4は、腎臓の機能は約30%以下にまで低下しており、
機能を回復させることが難しい段階です。
むくみ、尿の減少、高血圧、貧血など様々な症状も現れてきます。
治療の目標は現状を維持し、透析治療開始を遅らせることです。
脳・心血管疾患の合併症に注意を払う必要も出てきます。
腎臓が血圧調節に関わっていることからも、特に高血圧に注意する必要があります。
ここまでくると、老廃物が体内にたまりやすくなっているせいで
頭痛、食欲不振、嘔吐、不眠などの症状が現れ、放置しておくと死に至る危険性もあります。
ステージ5 「透析療法導入へ」
ステージ5は、腎臓の機能が極度に低下している状態で、
これに代わる働きをする透析療法を行う必要があります。
やり方によっては週に2~3回。1回あたり5時間前後は病院にいる必要があります。
はい。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
3回にわたって「糖尿病腎症」の話をさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
糖尿病の合併症の恐さは十分に周知されているのですが、
それでもまだまだ認知は少ないといわれています。
この記事を読んでいただいたあなたの周りにも、
もしかしたら思い当たる方がいるかもしれません。
「糖尿病と言われているけど治療を勝手に自己中断してしまっている」
「数値がかなり悪いけど本人が全く気にしていない・・」
もしもそんな方がいらっしゃったら、是非ともこの記事のお話を教えてあげてほしいのです。
手遅れになってしまう前に出来ることはたくさんあります。
裏を返せば、合併症を引き起こしてからでは、もう手遅れで修復不可能なのです。
そうなってしまう前に、是非とも一緒に糖尿病の治療をしていきましょう。
書かせていただいている記事が、
あなたの治療の一助になれば幸いです。
北習志野えんどう内科 院長 えんどう
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【今日の自分への問いかけ】
あなたはふだん自身の血糖値の状態をご存知ですか?
糖尿病は健康診断だけでは発見できない場合もあるので、
「ご家族や知り合いで糖尿病のいる方」、「最近急に太りだした」、「ここ最近運動しなくなった」
と感じられている方は、一度はかかりつけの先生にご相談してみてください。
糖尿病はたしかに厄介な病気ですが、
適切な治療さえ行っていれば、全く怖くない病気であることも事実です。
あなただけでなく、あなたの周りの大切な方のためにも
「健康な自分」と日頃から向き合っていきましょう!!
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